出会えてよかった

 

夜明け前も、夜明けも、今日もただ静かにそれぞれのすべてを包み込んでいる宇宙のような映画だった。

 

映画「夜明けのすべて」を観ました。

原作本の帯と北斗くんの言葉を借りれば、映画「夜明けのすべて」は私にとっても正に〝生きるのが少し楽になる映画〟である。


大好きなSixTONESのメンバーである松村北斗さんが主演をやると聞き、色々観てみてなんとなく好き質感だろうな、これなら見れるかな、なんて思って観に行った映画「夜明けのすべて」。

(映画ならではの迫力というかあまり得意ではないので)

まずは原作を読んでみようと手に取った瀬尾まいこさんの「夜明けのすべて」はとても好きな質感でゆっくりちまちまと読もうと思っていたら一夜で読み切ってしまいました。

原作を読んだ時から素敵だと思っていた、山添くんの藤沢さんの恋人でも友達でもない特別な関係。山添くんの凝り固まった世界に暖簾をくぐるようにするりとやさしく入ってきた藤沢さん、藤沢さんにゆるめられた世界で自分のいる場所から少しだけ手を伸ばして自分の世界をもう一度広げた山添くん。藤沢さんが差し出したものたちは日常のすぐそばにあるようなものばかり。ハサミも、自転車も、きっとそのやさしさだって。また北斗くんの言葉を借りることになりますがパンフレットで北斗くんが言っていた「生きることが少し素敵に思える」「外に出た時、見える風景がすべて、自分にとって出会えてよかったと思う風景に変わっていくという作品」がほんとうにそうだなぁと思います。きっとそんな素敵なやさしさは私のすぐそばにもある、そう思えるような映画。

 

「恋人も仲間もみんな遠くに行ってしまった、でも本当にそうだろうか」

ふたりの周りにはずっとやさしい人たちがいます。やさしい輪が時に重なり合いながらずっと広がっています。1人だと思っていても周りを見渡せばやさしい手を差し伸べてくれる人は案外近くにいるかもしれない、その手を取ってみれば自分の世界は少し広がるかもしれない、その手には自分の世界を開く鍵がひっそりと一緒に握られているかもしれない。人の優しさを信じたくなった、人に優しいひとになりたくなった。

 

「男女間であろうとも、苦手な人であろうとも、助けられることはある」

生まれも育ちも性別も持ってる病気も性格も何もかも違う凸凹のふたりでも、凸凹だからこそ助け合うことはできる。

わたしは〝心配〟が苦手です。心配されることも、人の心配をすることも。どうしてもむず痒くて悲しくて分からなくて逃げ出したくなる。人の心が無い冷たい人間だとずっと思ってきたけど、でも自分は自分なりに優しく助けられたらいいな、自分なりに優しくできることもあるかもしれないと思えた。わたしの世界もゆるめてくれた。

 

そして、原作に映画オリジナルの設定として織り込まれたテーマである宇宙。それによってどんな化学反応が起きるのだろうかと思っていたけれど、物語の中心となるのは自転車で行けるほどの小さな距離でありながら宇宙という果てしない壮大なものも絡んでいるからこそ、私にとって映画『夜明けのすべて』は〝生きるのが少し楽になる映画〟なのだろうと思います。

 

「この宇宙には変わらないものなんて存在しないのかもしれません」

プラネタリウムが語っていた近い将来役目をバトンタッチすることになる北極星たちのように、宇宙という大きなおおきな世界の中に変わらないものなんてないのなら、そんな壮大な世界の中にあるこんなにちっぽけな私たちの世界にも変わらないものなんてきっとないんだろうと思う。変わってしまうことは自然なことなのだと思う。と同時に、変わらないものもどこかにきっとひっそりといるんじゃないかとも思う。パンフレットの中で北斗くんが「僕自身も山添君も、宇宙って他人事だったけれど」って言っていて三宅監督もどこかで宇宙のことを「どうにもならないもの」と言っていたけど、宇宙という果てしなく広がる余白の大きなものだからこそいい意味で他人事というか自分の都合のいいように解釈できるというか、あんなに壮大な果てしない世界で世界中の人々に方角を教えるという大役を務めている北極星たちが変化していくのならその中にある小さな世界の影には変わらないものもきっとひっそりいるんじゃないかと思えた。藤沢さんや周りの人によって明るくなったけど栗田化学に残ることを選んだ山添くんのように。職場が変わっても変わらず山添くんのことを気にしていた辻元さん、親元を離れても変わらず藤沢さんのことを気にしていたお母さんのように。今日も変わらず回り続けている地球のように。夜についてのメモには〝地球が時速1700キロメートルで自転している限り、夜も朝も、等しくめぐって来る。そして、地球が時速11万キロメートルで公転している限り、同じ夜や同じ朝は存在し得ない〟と綴られていたが、変わらず動き続ける地球がいるからこそ星のお仕事も夜も朝もそれぞれのすべても変わっていく。変わらないことだって、きっと自然で悪いことじゃない。

 

変化が正義というか日々変化を求められてなぜかこのままじゃいけない、変わらなくてはならないと何かに追われていた私の世界で、映画「夜明けのすべて」は私にとって変わることは自然なことであり変わらないものはきっとないと思うと同時に変わらないことは悪いことではないし変わらないでいてくれるひとはきっとそばにいると思える、肯定も否定もせずただ静かに包み込んでくれるようなやさしい作品であり、肩を貸して寄りかからせてくれるような作品。私たちの生きるそれぞれのすべてを今日も静かに包んでいる宇宙のような作品。

 

出会わせてくれた北斗くん、そして髙地くんに特大の感謝を込めて。

 

ほんとうに出会えてよかった、